デナコールの実験室

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今回は東京理科大学 岩田直人助教と古海誓一教授の「デナコールと多糖系バイオマスによる自己修復材料の創製」についてご紹介いたします。


岩田 直人助教
所属
東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 (学部)
東京理科大学院 理学研究科化学専攻 (修士課程および博士後期課程)

■ 研究概要
高分子のダイナミクスの観点に基づき、リサイクル可能な機能性材料に関する研究を行っている。多糖系バイオマスを原料とした地球環境にやさしい自己修復材料の創製だけでなく、無機微粒子や液晶分子の配列状態に着目することで、フォトニック性を有する自己修復材料としての展開を目指している。
■ 専門分野
高分子材料, 高分子物性

古海 誓一教授
所属
東京理科大学 理学部第一部 応用化学科 (学部)
東京理科大学院 理学研究科 化学専攻 (修士課程および博士後期課程)

■ 研究概要
地球環境にやさしい有機・高分子材料から数百nmの周期配列構造体を自己組織的に創り出し、サステナブルなフォトニックデバイスへ応用する研究を行っている。最近では、セルロースなどのバイオマスを用いた自己修復材料の創製に関する研究テーマにもチャレンジしており、SDGsにおける「つくる責任 つかう責任」に貢献できる。
■ 専門分野
高分子フォトニクス、環境機能材料


デナコールと多糖系バイオマスによる自己修復材料の創製

一般的なゴムや樹脂は、石油資源から合成された高分子を共有結合により架橋することで製造されており、私達の日常生活において欠かすことのできない有用な材料です。しかし、これらの材料は加熱しても共有結合の強い架橋により軟化しないため、リサイクルができないという欠点があります。貴重な石油資源への依存から脱却することが求められる昨今、天然資源(バイオマス)を用いた代替材料の創製が渇望されています。
このような背景のもと、当研究グループでは、地球環境や人体にやさしいサステナブルなゴム材料の創製について取り組みました。具体的には、水溶性のエポキシ架橋剤であるナガセケムテックス株式会社のデナコールEX-821、いわゆるポリ(エチレングリコール)ジグリシジルエーテルと植物や海藻などの多糖系バイオマスを反応させることで、柔軟で透明なゴム膜の作製に成功しました(図1)[1,2]。特筆すべき性質として、このゴム膜は加熱によって軟化でき、再成形やリサイクルといった「自己修復性」を示すことがあげられます。多糖系バイオマスを原料としているだけなく、加熱によって自己修復もできるため、石油資源の保護や廃棄物の削減に寄与し、持続可能な社会の実現に貢献できるサステナブルな材料です。

図1. 多糖系バイオマスとデナコールEX-821を用いた自己修復性ゴム膜の創製

図2.他社の水溶性エポキシ化合物(A)とデナコールEX-821(B)を用いて作製したゴム膜の外観の比較

たとえば、他社の水溶性ジエポキシ化合物を用いてゴム膜を作製すると、光の散乱によって不透明な外観になってしまいます(図2A)。ところが、デナコールEX-821を使って作製したゴム膜は、高い透明性を示しました(図2B)。これだけでなく、デナコールEX-821を使用したゴム膜について延伸した際の破断ひずみを調べると、約7倍も向上することを発見しました。しかも、このゴム膜が一度、破断してしまっても、120 °Cに加熱しながら圧着すれば、一体化した元の状態にリサイクルできるため、自己修復性も有していることがわかりました(図3)。このように、ナガセケムテックス株式会社のデナコールEX-821を活用することで、力学物性と自己修復性の両面に優れたサステナブルなゴム膜が創製できました。


図3. デナコールEX-821と多糖系バイオマスを用いたゴム膜が自己修復する様子を示した写真.
半分に切断したゴム膜を重ねて120 °Cに加熱しながら圧着することで、一体化した元の状態に復元することができた.

[参考文献]

  • 古海 誓一・金田 隆希・岩田 直人、
    「自己修復性高分子を製造するための組成物、自己修復性高分子及び自己修復性材料」、
    特願2022-164356 (令和4年10月12出願).
  • 古海 誓一・武田 千都世・金田 隆希・岩田 直人、
    「自己修復性高分子を製造するための組成物、自己修復性高分子及び自己修復性材料物」、
    特願2023-074857 (令和5年4月28日 出願).